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疾患・症状と医薬品
甲状腺機能低下症の症状と治療薬・漢方薬

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足し、身体の新陳代謝が低下する病気です。疲れやすい、寒がりになる、顔や手足がむくむ、便秘が続く、体重が増えるなど、全身にさまざまな症状が現れます。
代表的な原因は橋本病(慢性甲状腺炎)です。治療にはチラーヂンSなどの甲状腺ホルモン製剤が用いられます。また、甲状腺機能が安定した後にも冷え・むくみ・疲労倦怠感などが気になる場合には、当帰芍薬散や補中益気湯などの漢方薬を、症状や体質に応じて検討することもできます。
甲状腺機能低下症とは
甲状腺は、首の前側にある蝶のような形をした臓器です。甲状腺ホルモンをつくり、体温の維持やエネルギー代謝、心臓や胃腸の働きなど、全身のさまざまな機能を調整しています。
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足することで、これらの働きが低下する状態です。身体の活動が全体的にゆっくりとなり、疲れやすさや寒がり、むくみなどが現れます。
甲状腺機能低下症の主な症状
- 全身:疲労倦怠感、眠気、無気力、体重増加
- 体温・循環:寒がり、手足の冷え、脈が遅くなる
- むくみ・皮膚:顔やまぶたのむくみ、皮膚の乾燥、脱毛
- 胃腸:便秘、食欲の低下
- 精神・神経:気分の落ち込み、物忘れ、集中力の低下、動作が遅くなる
- 女性:月経不順、月経量の増加、不妊など
これらの症状は少しずつ現れることが多く、疲労や加齢、更年期症状などと区別しにくい場合もあります。軽度の甲状腺機能低下症では、自覚症状がほとんどないこともあります。
橋本病(慢性甲状腺炎)との違い
橋本病は、甲状腺機能低下症の代表的な原因となる自己免疫疾患です。免疫の働きによって甲状腺に慢性的な炎症が起こり、甲状腺ホルモンを十分につくれなくなる場合があります。
ただし、橋本病と診断された方が、必ず甲状腺機能低下症になるわけではありません。橋本病でも甲状腺ホルモンが正常に保たれている方は多く、その場合には薬を使用せず、定期的な検査で経過を確認することがあります。
つまり、「甲状腺機能低下症」は甲状腺ホルモンが不足した状態を表す言葉で、「橋本病」はその原因となり得る病気の名称です。
甲状腺機能低下症の主な原因
| 原因 | 特徴 |
|---|---|
| 橋本病(慢性甲状腺炎) | 自己免疫によって甲状腺に慢性炎症が起こる病気で、原発性甲状腺機能低下症の代表的な原因です。 |
| 甲状腺の手術・放射性ヨウ素治療後 | バセドウ病や甲状腺の腫瘍などの治療後、甲状腺ホルモンが不足することがあります。 |
| 薬剤・ヨウ素の影響 | 一部の医薬品やヨウ素の過剰摂取などが、甲状腺機能に影響する場合があります。 |
| 甲状腺炎の回復期・産後 | 甲状腺炎や出産後に、一時的な甲状腺機能低下が起こることがあります。 |
| 中枢性甲状腺機能低下症 | 下垂体や視床下部の異常によって、甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態です。 |
自己免疫による甲状腺の慢性炎症で、代表的な原因です。
バセドウ病などの治療後に、ホルモンが不足することがあります。
一部の薬やヨウ素の過剰摂取が甲状腺機能に影響する場合があります。
一時的に甲状腺機能が低下する場合があります。
下垂体や視床下部の異常が原因となる場合があります。
TSH・FT4などの血液検査
甲状腺機能低下症の診断では、主に甲状腺刺激ホルモン(TSH)と遊離サイロキシン(FT4)を測定します。
一般的な原発性甲状腺機能低下症では、TSHが高くなり、FT4が低くなることが特徴です。
橋本病が疑われる場合には、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体(TgAb)などを確認し、必要に応じて甲状腺超音波検査を行います。
なお、下垂体や視床下部に原因がある中枢性甲状腺機能低下症では、FT4が低くてもTSHが高くならないことがあり、原発性とは検査結果の現れ方が異なります。
潜在性甲状腺機能低下症とは
血液検査でFT4は正常範囲内でも、TSHだけが高くなっている状態を「潜在性甲状腺機能低下症」と呼びます。
自覚症状が少ない場合もあり、すべての方に直ちに薬が必要になるわけではありません。TSHの値や症状、年齢、甲状腺自己抗体の有無、妊娠希望などを考慮して治療を判断します。
特に妊娠を希望している方や妊娠中の方では、軽度の甲状腺機能低下であっても、より慎重な管理が必要になる場合があります。
甲状腺機能低下症の治療
甲状腺機能低下症の治療では、不足している甲状腺ホルモンを医薬品で補う「甲状腺ホルモン補充療法」が基本となります。
日本ではチラーヂンSなどのレボチロキシン製剤が主に使用され、血液検査の結果を確認しながら服用量を調整します。
| 治療方法 | 内容 |
|---|---|
| 甲状腺ホルモン補充療法 | レボチロキシンを服用し、不足している甲状腺ホルモンを補います。治療の中心となる方法です。 |
| 定期的な血液検査 | TSH・FT4などを確認し、甲状腺ホルモン製剤の服用量を調整します。 |
| 原因に応じた対応 | 一時的な甲状腺機能低下やヨウ素過剰、薬剤の影響などがある場合には、原因に応じた対応を検討します。 |
| 症状に応じた治療 | 便秘や皮膚の乾燥などが続く場合、甲状腺機能を確認したうえで、それぞれの症状への対処を行います。 |
レボチロキシンを服用し、不足しているホルモンを補います。
TSH・FT4などを確認しながら服用量を調整します。
ヨウ素過剰や一時的な甲状腺炎などでは、原因に応じた対応を検討します。
便秘や皮膚乾燥などについて、必要に応じて症状別の対応を行います。
甲状腺機能低下症に使われる主な医薬品
| 薬・成分 | 特徴・位置づけ |
|---|---|
| レボチロキシン チラーヂンS錠・散など |
不足している甲状腺ホルモン(T4)を補う薬です。甲状腺機能低下症の標準的な治療薬として広く使用されます。 |
| リオチロニン チロナミン錠など |
甲状腺ホルモン(T3)を補う薬です。通常の甲状腺機能低下症ではレボチロキシンが基本であり、リオチロニンは必要な場合に専門的に使用されます。 |
| 症状に応じた医薬品 便秘薬・保湿剤など |
甲状腺ホルモン値が安定しても便秘や皮膚の乾燥などが続く場合には、その症状に合わせた医薬品を検討します。 |
不足した甲状腺ホルモン(T4)を補う、標準的な治療薬です。
甲状腺ホルモン(T3)を補う薬で、必要な場合に専門的に使用されます。
便秘薬や保湿剤などを、症状に合わせて使用する場合があります。
チラーヂンS(レボチロキシン)
チラーヂンSは、甲状腺機能低下症の治療に用いられる代表的な医療用医薬品です。身体の中で不足している甲状腺ホルモン(T4)を補うことで、全身の代謝を正常な状態に近づけます。
甲状腺機能が改善すると、疲れやすさ、寒がり、むくみ、便秘、眠気などの症状も徐々に改善することが期待できます。
服用量は年齢や甲状腺機能、心臓の状態などによって異なります。特に高齢の方や心臓に病気がある方では、少量から開始して慎重に調整することがあります。
橋本病などによって甲状腺ホルモンを十分につくれなくなった場合には、長期間にわたって服用を続けることがあります。一方、一時的な甲状腺機能低下では、経過に応じて薬を減量・中止できる場合もあります。
チラーヂンSとほかの薬・サプリメントの飲み合わせ
チラーヂンSは、鉄剤・カルシウム製剤・一部の胃薬・ミネラルサプリメントなどと一緒に服用すると、吸収が低下する場合があります。
特に鉄やカルシウムを含む製品では、服用する時間を数時間程度ずらすなどの対応が必要になることがあります。
服用する時間や食事との関係によっても吸収が変化するため、毎日の服用方法をなるべく一定にし、現在使用している薬やサプリメントについて薬剤師に確認することが大切です。
甲状腺ホルモン補充療法の効果と治療期間
チラーヂンSなどの甲状腺ホルモン製剤は、不足したホルモンを補うための薬です。適切な量を服用することで甲状腺機能を維持し、日常生活を送りやすくすることが期待できます。
効果の現れ方には個人差があり、疲労感などの症状が改善するまでには時間がかかる場合もあります。服用開始後や用量変更後は、一定期間をおいて血液検査を行い、必要に応じて調整します。
過剰に服用すると動悸、発汗、手の震え、不眠など、甲状腺ホルモンが多すぎる状態の症状が現れることがあります。自己判断で増量・減量せず、検査結果をもとに適切な量を維持します。
妊娠希望・妊娠中の甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは、妊娠の成立や維持、赤ちゃんの成長・発達にも重要な役割があります。
妊娠を希望している方や妊娠中の方では、通常よりも細やかな甲状腺機能の管理が必要です。妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が増えることがあり、チラーヂンSの用量調整が必要になる場合もあります。
橋本病などで治療中の方は、妊娠を希望する段階から甲状腺機能を確認し、妊娠が分かった場合も早めに担当医と服用量について相談することが大切です。
強い甲状腺機能低下では、まれに意識障害や低体温、呼吸の異常などを伴う「粘液水腫性昏睡」を起こす場合があり、緊急の治療が必要です。通常の疲労感やむくみとは異なる著しい症状がある場合には、速やかに医療機関での対応が必要です。
甲状腺機能低下症の治療中に気をつけたいこと
甲状腺機能低下症では、薬によってホルモン値が安定すれば、通常の日常生活を送れることが多くなります。治療中は、薬の服用方法や生活習慣を整えることが大切です。
治療中に意識したいポイント
- 服薬を継続する:症状が改善しても自己判断で中止せず、定期的な血液検査を受ける
- 飲み合わせを確認する:鉄剤・カルシウム・一部の胃薬などとの服用間隔に注意する
- ヨウ素の過剰摂取を避ける:昆布やヨウ素を高濃度に含むサプリメントなどの過剰摂取に注意する
- 体調の変化を確認する:疲労感、冷え、むくみ、便秘、体重変化などの経過を確認する
- 妊娠時は早めに相談する:妊娠を希望している場合や妊娠中は、甲状腺ホルモンの必要量が変化する場合がある
日本では海藻類などからヨウ素を十分に摂取できることが多く、甲状腺機能低下症だからといって、自己判断でヨウ素を大量に補うことが適切とは限りません。
特に橋本病では、ヨウ素の過剰摂取が甲状腺機能に影響する場合があります。ただし、通常の食事に含まれる海藻をすべて避ける必要があるわけではなく、摂取量や甲状腺の状態に応じて考えます。
甲状腺機能低下症と漢方薬
甲状腺機能低下症の治療では、不足している甲状腺ホルモンを補うことが基本です。漢方薬はチラーヂンSなどの甲状腺ホルモン製剤に代わるものではありません。
一方、甲状腺機能が安定している方でも、手足の冷え・むくみ・疲労倦怠感・胃腸の弱さなどの不調が続くことがあります。そのような場合には、症状の原因や体質を確認し、漢方薬の効能・効果に合うものを検討できます。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
当帰芍薬散は、手足の冷え・むくみ・めまい・疲れやすさなどが気になる方に用いられる漢方薬です。特に体力があまり強くなく、冷え症で、貧血傾向や月経の不調を伴う方などに適しています。
当帰・芍薬・川芎など血の巡りや身体の状態を整える生薬と、茯苓・沢瀉・白朮など水分代謝に関わる生薬を組み合わせた処方です。
甲状腺機能低下症に伴って現れる冷えやむくみと似た症状が、甲状腺ホルモン値が改善した後にも残る場合があります。そのような際に、ほかの原因や体質を確認しながら検討できる漢方薬の一つです。
冷え・むくみ・疲れやすさが重なる方に
当帰芍薬散料エキス細粒G「コタロー」は、体力虚弱で冷え症、貧血傾向があり、疲れやすい方の足腰の冷え症・むくみ・めまい・月経不順などに効能・効果が認められています。
甲状腺機能低下症そのものを治療する薬ではありませんが、甲状腺機能が安定しており、症状や体質が適応に合う場合に検討されます。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯は、疲労倦怠感・食欲不振・体力低下などが気になる方に用いられる漢方薬です。胃腸の働きが弱く、疲れやすい方や、病後に体力が戻りにくい方などに適しています。
人参・黄耆など体力を補う生薬を中心に、白朮・陳皮など胃腸の働きを助ける生薬を組み合わせた処方です。
甲状腺機能低下症では疲労感や無気力などが現れることがありますが、ホルモン値が正常化しても疲れやすさや食欲不振が続く場合には、症状の原因を確認しながら検討できる漢方薬です。
なお、甲状腺ホルモンが不足している状態を、補中益気湯によって補うことはできません。甲状腺機能の管理とは別に、疲労倦怠感や胃腸虚弱に対して選択する処方です。
真武湯(しんぶとう)
真武湯は、身体の冷えが強く、胃腸の働きが弱い方に用いられる漢方薬です。冷えに加えて、軟便・下痢、めまい、全身のだるさなどが気になる方に検討されます。
茯苓・芍薬・蒼朮・生姜・附子などを含み、身体を温めながら水分代謝や胃腸の働きを整えることを目的に用いられます。
甲状腺機能低下症で寒がりや冷えがある方でも、真武湯が適するかどうかは胃腸の状態や体質によって異なります。甲状腺ホルモンの補充とは役割を区別して検討します。
カミツレ薬局では、医療用漢方薬としてツムラ真武湯の製品情報もご案内しています。医療用医薬品のため、通販・郵送販売の対象にはなりません。
その他の関連する症状に用いられる漢方薬
疲れやすく、汗をかきやすい、水太り傾向の方のむくみなどに。甲状腺機能低下によるむくみとは区別し、体質に合う場合に検討します。
便秘の状態や体力に応じて、麻子仁丸などが検討される場合があります。甲状腺機能の管理と合わせて、便通の状態を確認します。
甲状腺機能低下症では、冷えやむくみ、便秘、倦怠感などがホルモン不足そのものによって起こる場合があります。そのため、漢方薬を検討する際には、甲状腺ホルモンの値が十分に管理されているかを確認することが大切です。
また、漢方薬の種類によっては甘草や附子などを含むものがあり、副作用や飲み合わせの確認が必要です。甲状腺ホルモン製剤との服用時間についても、ほかの薬やサプリメントの使用状況を合わせて確認します。
カミツレ薬局で相談・購入できる漢方薬
カミツレ薬局では、冷え・むくみ・疲労倦怠感などに用いられる漢方薬を取り扱っています。甲状腺疾患の治療中の方についても、現在の治療内容や甲状腺ホルモン値、体調などを確認しながらご相談いただけます。
当帰芍薬散料エキス細粒G「コタロー」
とうきしゃくやくさんりょう
冷え・むくみ・めまいなどに。体力虚弱で冷え症、貧血傾向があり、疲れやすい方に用いられる漢方薬です。足腰の冷えやむくみ、月経の不調などが気になる方に適しています。
商品情報・購入ページを見る補中益気湯エキス細粒G「コタロー」
ほちゅうえっきとう
疲労倦怠感・食欲不振・体力低下に。胃腸の働きが弱く、疲れやすい方の虚弱体質や疲労倦怠感などに用いられる漢方薬です。
商品情報・購入ページを見るその他の関連製品
防已黄耆湯エキス細粒G「コタロー」 ― 疲れやすく汗をかきやすい、水太り傾向の方のむくみなどに。
当帰芍薬散料<煎じ薬>7日分 ― 冷え・むくみなどに用いられる煎じ薬タイプの漢方薬。
ツムラ真武湯(医療用医薬品・店舗での対面相談) ― 強い冷えや胃腸虚弱などがある方に用いられる漢方薬。取扱状況・販売可否は事前にご確認ください。
掲載している漢方薬は、冷え・むくみ・疲労倦怠感など、それぞれの製品に認められた効能・効果に応じて使用するものです。甲状腺機能低下症や橋本病そのものを治療する医薬品ではありません。
甲状腺機能低下症の薬は通販・処方箋なしで購入できる?
甲状腺機能低下症の治療に用いられるチラーヂンSなどの甲状腺ホルモン製剤は、医療機関で処方される医薬品です。
チラーヂンS(レボチロキシン)は処方箋医薬品であり、処方箋なしで購入することはできません。甲状腺ホルモン値を確認しながら服用量を調整する必要があり、定期的な血液検査も重要です。
一方、当帰芍薬散・補中益気湯・防已黄耆湯などの一般用漢方薬は、冷え・むくみ・疲労倦怠感など、製品の効能・効果や体質に合う場合、処方箋なしで通販・オンライン購入できます。
ただし、これらの漢方薬は不足している甲状腺ホルモンを補う薬ではありません。甲状腺機能低下症が原因となる症状については、必要なホルモン補充療法を優先します。
カミツレ薬局では、処方箋医薬品以外の医療用医薬品を店舗で対面販売する場合もありますが、医療用医薬品の通販・郵送販売は行っていません。
甲状腺ホルモン製剤と漢方薬、サプリメントなどの併用を検討する場合は、現在の服用量や血液検査の結果、ほかの医薬品との飲み合わせを確認することが大切です。
甲状腺疾患の治療中に気になる症状・漢方薬のご相談
「橋本病と甲状腺機能低下症はどう違う?」「チラーヂンSとサプリメントは併用できる?」「冷えやむくみに使える漢方薬は?」「当帰芍薬散と補中益気湯はどう違う?」など、お薬についてお気軽にご相談ください。
参考文献・情報源
執筆・監修:カミツレ薬局 薬剤師 河津伸也
宮城県仙台市・東北大学病院前
本ページは、医薬品添付文書や医学・薬学資料に基づき、一般の方向けにまとめています。



