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PTSDのフラッシュバックに使用される「神田橋処方」|不安障害・パニック障害と漢方
不安障害やパニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)では、精神的な不安だけでなく、動悸、息苦しさ、のどのつまり感、めまい、発汗、不眠、悪夢、手足の震えなど、さまざまな身体症状が現れることがあります。
一般的には、SSRIなどの抗うつ薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬などが使用されますが、症状や体質、副作用、薬への抵抗感などを考慮し、漢方薬が選択されることもあります。
特に、パニック発作や強い動悸に対しては「苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)」、PTSDによるフラッシュバックに対しては、四物湯と桂枝加芍薬湯を組み合わせた「神田橋処方(かんだばししょほう)」が使用されることがあります。
不安障害・パニック障害・PTSDとは
不安障害
不安障害は、強い不安や緊張が続き、日常生活に影響を及ぼす状態の総称です。
漠然とした不安だけでなく、動悸、息苦しさ、めまい、発汗、胃腸症状、のどのつまり感、不眠、集中力の低下など、身体症状として現れることも少なくありません。
パニック障害
パニック障害では、突然、強い不安や恐怖とともに、激しい動悸、息苦しさ、胸部不快感、めまい、発汗、手足の震えなどが起こる「パニック発作」を繰り返します。
発作がないときにも、「また発作が起こるのではないか」という予期不安が続き、電車や人混み、外出などを避けるようになることがあります。
PTSDとフラッシュバック
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、事故、災害、暴力、虐待など、強い恐怖や精神的苦痛を伴う出来事を経験した後に起こる精神的な不調です。
PTSDでは、過去の出来事の映像、音、におい、感覚、恐怖などが突然よみがえり、あたかも現在起きているかのように再体験されることがあります。これを「フラッシュバック」と呼びます。
そのほか、悪夢、不眠、過度な緊張、驚きやすさ、イライラ、動悸、集中力の低下などを伴うことがあります。
不安障害やパニック障害に使用される西洋薬
不安障害やパニック障害には、一般的にSSRIなどの抗うつ薬や、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などが使用されます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、比較的速やかに不安や緊張を抑えるため、強い不安やパニック発作などに使用されます。
一方、長期間または頻回に使用すると、薬の効果が弱く感じられる「耐性」や、服用をやめにくくなる「身体依存」、急な中止による離脱症状などが問題となることがあります。
眠気、ふらつき、転倒、記憶への影響などにも注意が必要です。
SSRIなどの抗うつ薬
SSRIは、不安障害やパニック障害の治療に広く使用されています。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬のような依存性は基本的にありませんが、服用初期に吐き気、不安感、焦燥感などが現れることがあります。また、急に服用を中止すると、めまい、しびれ、不眠などの中止後症状が現れる場合があります。
西洋薬は不安障害やパニック障害の重要な選択肢ですが、効果や副作用、症状の程度などを確認しながら使用することが大切です。
不安やパニックに漢方薬が使用されることもある
漢方薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬で問題となるような耐性や身体依存が基本的に起こらないことが特徴です。
比較的軽い不安症状の場合や、動悸、息苦しさ、のどのつまり感、めまい、不眠、胃腸症状など、身体症状を伴う場合には漢方薬が選択肢となることがあります。
また、西洋薬を完全に置き換える目的だけでなく、西洋薬を服用していても残っている症状を補うために、漢方薬が併用されることもあります。
漢方では、「不安障害」「パニック障害」という病名だけで処方を決めるのではなく、不安の現れ方、動悸の起こり方、不眠、悪夢、イライラ、胃腸症状、体力、冷えなどを確認して漢方薬を選択します。
PTSDのフラッシュバックに使用される「神田橋処方」
神田橋処方とは
「神田橋処方」は、精神科医の神田橋條治先生が考案したとされる漢方処方で、次の2種類を組み合わせて使用します。
「四物湯合桂枝加芍薬湯」とも呼ばれ、PTSDやトラウマに伴うフラッシュバック、悪夢、過覚醒などに対して、精神科領域で使用されることがあります。
四物湯は、当帰、芍薬、川芎、地黄の4種類の生薬から構成され、漢方でいう「血」の不足を補う代表的な漢方薬です。
桂枝加芍薬湯は、桂皮、芍薬、大棗、生姜、甘草から構成され、緊張を緩め、主に腹部膨満感、腹痛、しぶり腹などに使用される漢方薬です。
一般的な効能だけを見ると、PTSDやフラッシュバックとは関係がないように見えますが、この2つを組み合わせることで、フラッシュバックや悪夢などが軽減した症例が報告されています。
神田橋処方の位置づけ
神田橋処方は、PTSDやフラッシュバックに対する一般用医薬品の承認効能を持つ一つの商品ではありません。四物湯と桂枝加芍薬湯を組み合わせた臨床的な処方であり、症例報告や精神科医などの臨床経験をもとに使用されています。
神田橋処方は継続して服用することが多い
神田橋処方は、フラッシュバックが起きたときだけ服用する頓用というよりも、一定期間継続して服用することで、フラッシュバックや悪夢、過度な緊張などが徐々に落ち着いてくることがあります。
一度や数回の服用だけで判断せず、フラッシュバックの頻度、悪夢、睡眠、動悸、不安感などの変化を確認しながら、焦らず継続的に経過を見ることも重要です。
取り扱い商品(第2類医薬品)
不安感、動悸、不眠、のどのつまり感などに使用される代表的な漢方薬です。症状や体質によって適した漢方薬は異なります。
こんな悩みがある場合に漢方薬が使用されることがあります
- 過去のつらい出来事や場面が突然よみがえる。
- フラッシュバックや悪夢を繰り返す。
- 突然、強い動悸や息苦しさ、不安に襲われる。
- またパニック発作が起こるのではないかと不安になる。
- 漠然とした不安や緊張が続いている。
- のどが詰まるような感じや、呼吸がしにくい感じがある。
- イライラ、焦燥感、不眠、悪夢などがある。
- ストレスに伴って、めまい、ふらつき、動悸が起こる。
不安障害・パニック障害などに使用される漢方薬
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
半夏厚朴湯は、不安感に加えて、のどのつまり感、息苦しさ、呼吸がしにくい感じ、吐き気、動悸などがある場合に使用されます。
のどに何かが詰まっているように感じるものの、検査では明らかな異常がない状態は、漢方では「梅核気(ばいかくき)」と呼ばれます。
気分がふさいで、のどや食道に異物感があり、動悸、めまい、吐き気などを伴う不安神経症にも使用される代表的な漢方薬です。
帰脾湯(きひとう)
帰脾湯は、漠然とした不安感、不眠、夢が多い、考えすぎて眠れない、動悸、健忘、疲れやすさ、食欲不振などがある場合に使用されます。
心身の疲労が続き、胃腸が弱り、体を養う「気」や「血」が不足して精神的に不安定になっている方に適しています。
不安感や不眠に加えて、のぼせ、熱感、イライラなどが強い場合には、帰脾湯に柴胡と山梔子を加えた「加味帰脾湯」が選択されることもあります。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
柴胡加竜骨牡蛎湯は、動悸、イライラ、不安、悪夢、不眠、落ち着かない感じ、パニック発作や予期不安などに使用されることがあります。
比較的体力があり、精神的な緊張や興奮が強く、胸がドキドキする、脈が乱れるように感じる、悪夢をよく見るといった方に適しています。
実際の不整脈が疑われる場合や、胸痛、失神、強い息苦しさなどを伴う場合には、心臓の病気が隠れていないか確認する必要があります。
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
桂枝加竜骨牡蛎湯は、神経過敏、不安、驚きやすい、不眠、悪夢、動悸などがあり、比較的体力が低下している方に使用されます。
夢精、夜尿症、小児の夜泣きなどにも用いられるほか、神経過敏やストレスが関係する脱毛などに応用されることもあります。
柴胡加竜骨牡蛎湯よりも体力が低下し、疲れやすい方や、刺激に敏感で消耗しやすい方に選択される傾向があります。
加味逍遙散(かみしょうようさん)
加味逍遙散は、イライラ、漠然とした不安、気分の波、不眠、のぼせ、発汗、冷えなど、心身の症状が変動しやすい場合に使用されます。
特に、月経前後や更年期に伴って、精神不安、イライラ、焦燥感、不眠などが現れる更年期神経症にも使用される代表的な漢方薬です。
症状が一定ではなく、日や時間によって不調の現れ方が変わる方にも選択されます。
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
抑肝散加陳皮半夏は、焦燥感、興奮、イライラ、不眠、神経過敏、チック症状、眼瞼けいれん、手足の震えなどに使用されることがあります。
抑肝散に、陳皮と半夏を加えた処方です。抑肝散に含まれる茯苓・甘草と、追加された陳皮・半夏を合わせると、胃腸機能を整える「二陳湯」を構成する4つの生薬が含まれます。
そのため、抑肝散を使用するようなイライラや興奮がありながら、胃腸が弱い、食欲がない、吐き気や胃のつかえがある場合に選択されます。
半夏には胃内の水分停滞や吐き気を整えるほか、鎮静的な働きも期待されます。抑肝散よりも体力が低下し、胃腸症状や気分の落ち込み、うつ傾向を伴う場合にも有効といわれています。
苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)
苓桂甘棗湯は、パニック発作、下腹部やみぞおちから突き上げてくるような感覚、突然起こる強い動悸、発作的な不安、体が震えるような感覚などに使用されます。
漢方では、下腹部から胸に向かって何かが突き上げ、激しい動悸や不安が起こる状態を「奔豚気(ほんとんき)」と呼びます。苓桂甘棗湯は、この奔豚気に用いられる代表的な漢方薬です。
発作時の頓用でも比較的早く変化を感じる方がいますが、発作を繰り返す場合には、継続して服用し、発作の頻度や予期不安が落ち着いてくるか確認することもあります。
現在、保険診療で一般的に使用される医療用エキス製剤には、苓桂甘棗湯そのものがありません。そのため、医療現場では、症状や体質に応じて次の組み合わせが代用的に用いられることがあります。
- 苓桂朮甘湯+甘麦大棗湯
- 苓桂朮甘湯+桂枝加竜骨牡蛎湯
ただし、これらは苓桂甘棗湯と完全に同一の処方ではなく、苓桂甘棗湯の処方意図に近づけるための組み合わせです。
定悸飲(ていきいん)
定悸飲は、ストレスや不安、過労などに伴う動悸、不安神経症に使用される漢方薬です。
動悸に加えて、めまい、ふらつき、のぼせ、不安感、緊張、落ち着かない感じなどがある場合に適しています。
一般用医薬品の定悸飲エキス錠N「コタロー」では、「体力中等度で、ときにめまい、ふらつき、のぼせがあるものの動悸、不安神経症」が効能・効果として認められています。
神田橋処方(四物湯+桂枝加芍薬湯)
神田橋処方は、四物湯と桂枝加芍薬湯を組み合わせた処方で、PTSDやトラウマに伴うフラッシュバック、悪夢、過覚醒などに使用されることがあります。
一般用医薬品としての四物湯や桂枝加芍薬湯には、PTSDやフラッシュバックという効能は記載されていませんが、精神科領域における臨床的な応用処方として知られています。
漢方薬は頓用よりも継続が重要な場合がある
苓桂甘棗湯や甘麦大棗湯など、発作時の頓用で比較的早く変化を感じることがある漢方薬もあります。
一方、不安障害、パニック障害、PTSDに伴うフラッシュバックなどは、症状が起きたときだけ服用するのではなく、一定期間継続することで、少しずつ症状が落ち着いてくる場合があります。
漢方薬は一度や数回の服用だけで判断せず、動悸、睡眠、悪夢、予期不安、フラッシュバックの頻度などを確認しながら、焦らず継続的に経過を見ることも大切です。
ただし、漢方薬によっては頓用に適したもの、継続服用に適したものが異なるため、症状や使用目的に応じて選択する必要があります。
※漢方薬は、同じ処方名であっても、医療用医薬品と一般用医薬品、製造販売元によって、承認されている効能・効果、生薬の配合量、エキス含有量、用法・用量などが異なる場合があります。記事内で紹介している症状には、一般用医薬品として認められている効能のほか、漢方医学や医療現場における使用例を含みます。実際に使用する際は、各製品の添付文書をご確認ください。
症状が強い場合は医療機関へ相談を
漢方薬は不安、動悸、不眠、パニック発作などの選択肢となりますが、すべての症状を漢方薬だけで対応できるわけではありません。
次のような場合には、自己判断で漢方薬だけを使用せず、精神科、心療内科、内科などの医療機関へご相談ください。
- 不安やフラッシュバックにより日常生活を送ることが難しい。
- 眠れない状態が長く続いている。
- 自分を傷つけたい、消えてしまいたいという気持ちがある。
- 強い胸痛、失神、激しい息苦しさを伴う。
- 動悸や脈の乱れが長く続いている。
- 症状が急激に悪化している。
よくある質問
神田橋処方は一つの商品ですか?
神田橋処方という名称の一つの商品ではありません。四物湯と桂枝加芍薬湯の2種類を組み合わせた処方の通称です。
神田橋処方はPTSDの正式な適応薬ですか?
四物湯と桂枝加芍薬湯の一般的な承認効能に、PTSDやフラッシュバックは記載されていません。神田橋処方は、症例報告や精神科領域の臨床経験をもとに使用されている応用処方です。
パニック発作には漢方薬を頓用できますか?
苓桂甘棗湯など、発作時の頓用で変化を感じる方もいます。ただし、発作を繰り返す場合は、一定期間継続して服用し、発作の頻度や予期不安の変化を確認することもあります。
漢方薬には依存性がありますか?
漢方薬では、ベンゾジアゼピン系抗不安薬で問題となるような耐性や身体依存は基本的に起こりにくいと考えられています。ただし、副作用がないわけではなく、甘草など同じ生薬を含む漢方薬の重複には注意が必要です。
参考・出典
- 安斎圭一 著.すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方―診療の手札を増やす!症状ごとにわかるエキス製剤の使い方とTips.羊土社,2023年.
- 日本不安症学会・日本神経精神薬理学会「パニック症の診療ガイドライン」
- 「フラッシュバックと神田橋処方」Phil漢方
- 小太郎漢方製薬「苓桂甘棗湯」漢方処方解説
- 苓桂甘棗湯エキス細粒G「コタロー」添付文書情報
- 定悸飲エキス錠N「コタロー」添付文書情報
- 「パニック発作に対する漢方治療の経験」
※本記事は医薬品および漢方薬に関する情報提供を目的としています。漢方薬の効果や適否には個人差があります。服用中の薬がある方、治療中の病気がある方、症状が強い方は、医師または薬剤師へご相談ください。



