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妊娠時(妊婦)の投与に注意が必要な漢方薬
漢方薬は、西洋薬に比較して一般的に安全性が高く、副作用が少ないと考えられていますが、妊婦への使用については安全性が確認されていないものも多く、妊娠時の使用については漢方薬も同様に注意が必要となります。
妊娠時の漢方治療の3つの原則
一般的に、妊婦の方の漢方治療には次の3つの原則を守る必要があるといわれています。
1.過度の発汗は避ける
過度の発汗により「陽気」を損なうとされており、麻黄剤などの使用により抹消循環を損ない、胎盤への血流を損なうと考えられています。
2.過度の瀉下(下痢)は避ける
大黄剤などの使用による過度の瀉下は、「陰血」を損なうと考えられています。
3.過度の利尿は避ける
利尿作用のある漢方薬の使用による過度の利尿は「津液(体液)」を損なうと考えられています。
妊娠時に慎重投与するべき「生薬」と「作用」
上に示した3つの原則より、次の<表1>に記載の生薬を配合した漢方薬については、妊婦に慎重に使用する必要があります。
特に注意が必要な生薬として、大黄(ダイオウ)や芒硝(ボウショウ)、紅花(コウカ)、牛膝(ゴシツ)、桃仁(トウニン)、牡丹皮(ボタンピ)、附子(ブシ)があります。
これらの生薬を配合した漢方薬は、流早産などの危険性があるため、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましいとされています。
また、大黄(ダイオウ)を含有する処方では、ダイオウ中のアントラキノン誘導体が母乳中に移行し、乳児の下痢を起こすことがあるため注意が必要です。
下記<表1>に記載の生薬でも、実際の医療現場では妊娠中の方にも使用されることもあります。
例えば、つわり(妊娠悪阻)に使用される「少半夏加茯苓湯」や「半夏厚朴湯」、「人参湯」、「六君子湯」などの漢方薬には、「半夏」「乾姜」の生薬を含んでいるため、使用自体ができないということではありません。
妊婦に慎重に投与するように添付文書への記載がありますが、催奇形性を認めた報告はないとされています。
いずれにせよ、妊婦には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することが重要であり、長期間の服用には十分な注意が必要です。
| 生薬名 | 作用 |
|---|---|
| 乾姜(カンキョウ) | 新陳代謝機能亢進、利尿 |
| 枳実(キジツ) | 子宮収縮、健胃 |
| 紅花(コウカ) | 子宮収縮、駆お血、通経、鎮痛 |
| 厚朴(コウボク) | 利尿、去痰 |
| 午膝(ゴシツ) | 子宮収縮、通経、駆お血、利尿 |
| 呉茱萸(ゴシュユ) | 子宮収縮、健胃、鎮痛、利尿 |
| 五味子(ゴミシ) | 鎮咳、去痰 |
| 酸棗仁(サンソウニン) | 神経強壮、睡眠 |
| 辛夷(シンイ) | 排膿、解熱、鎮痛 |
| 大黄(ダイオウ) | 子宮収縮、骨盤内部充血、消炎、瀉下、健胃 |
| 桃仁(トウニン) | 消炎、鎮痛、駆お血、瀉下 |
| 薄荷(ハッカ) | 発汗、解熱、健胃、排膿 |
| 半夏(ハンゲ) | 鎮吐、鎮嘔、鎮咳、去痰 |
| 附子(ブシ) | 興奮、強心、鎮痛、利尿、毒性有 |
| 芒硝(ボウショウ) | 瀉下、利尿、子宮収縮 |
| 牡丹皮(ボタンピ) | 消炎、駆お血、子宮内膜の充血 |
| 麻子仁(マシニン) | 緩下 |
| 薏苡仁(ヨクイニン) | 子宮収縮、利尿、消炎、排膿、鎮痛 |
参考・出典
- 漢方医薬学雑誌15(4):92,2007.
- 日産婦誌52(5):89,2000.
- 産婦人科の実際41(3):397,1992.
- 月間薬事36(7):1647,1994.
- 後山尚久:薬局57(8):2649,2006,治療85(1):93,2003.
- 漢方スクエア「漢方服薬指導Q&A」
- 日本臨床漢方医会
- 福岡県薬剤師会
※本記事は医薬品の情報提供を目的としており、効果には個人差があります。服用にあたっては医師または薬剤師にご相談ください。



