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不育症と漢方薬|繰り返す流産に対する漢方医学の考え方
不育症とは
不育症とは、妊娠することはできるものの、流産や死産を繰り返し、妊娠を継続して出産に至ることが難しい状態をいいます。
一般的には、2回以上の流産または死産の既往がある場合を不育症として考えます。
なお、「不育症」「反復流産」「習慣流産」は似た意味で使われますが、定義には国内外のガイドラインによって多少の違いがあります。
自然流産を2回繰り返すことを「反復流産」、3回以上繰り返すことを「習慣流産」と呼ぶこともあります。
流産そのものは決してまれではありませんが、流産を繰り返す場合には、母体側・胎児側のさまざまな要因が関係している可能性があるため、必要に応じて原因を調べることが重要です。
不育症の原因として考えられていること
不育症は、一つの病気を指すものではなく、さまざまな原因が関係します。
現在、不育症に関連する要因としては、次のようなものが知られています。
- 抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫・血液凝固異常
- 子宮の形態異常
- 甲状腺機能などの内分泌異常
- 夫婦いずれかの染色体構造異常
- 胎児側に偶発的に生じる染色体異常
たとえば、抗リン脂質抗体症候群(APS)では、血液が固まりやすくなることなどによって胎盤の形成や機能に影響し、流産や胎児発育不全などの妊娠合併症につながることがあります。
一方で、不育症の検査を行っても、明確な原因が特定できないことも少なくありません。
そのため、まずは産婦人科などで必要な検査を行い、治療可能な原因がないか確認することが大切です。
西洋医学ではどのような検査・治療をする?
西洋医学における不育症の治療では、すべての方に同じ薬を使用するのではなく、まず流産を繰り返す原因やリスク因子がないかを調べ、その結果に応じた治療を行うことが基本となります。
主な検査としては、抗リン脂質抗体などの血液検査、甲状腺機能検査、子宮の形態を確認する超音波検査、必要に応じて夫婦の染色体検査などが行われます。
抗リン脂質抗体症候群(APS)がある場合
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、不育症の原因として特に治療法が確立しているものの一つです。
抗リン脂質抗体によって血液が固まりやすくなると、胎盤を形成する過程などに影響し、流産につながることがあります。
日本産科婦人科学会のガイドラインでは、診断基準を満たす抗リン脂質抗体症候群では、低用量アスピリンと未分画ヘパリンを組み合わせた治療の有効性が確立しています。
実際の医療現場では、低用量アスピリンとしてアスピリン100mg製剤(バイアスピリン錠100mgなど)が使用されることがあり、妊娠成立後にはヘパリンカルシウムの皮下注射などを組み合わせる場合があります。
これらは血液を固まりにくくすることで、血栓形成を抑える目的で行われる治療です。
甲状腺機能に異常がある場合
甲状腺機能の異常も、妊娠の成立や妊娠経過に影響することがあります。
明らかな甲状腺機能低下症などが認められる場合には、甲状腺ホルモンを補うレボチロキシン(チラーヂンSなど)による治療が行われます。
甲状腺機能については妊娠を希望する時期には通常と異なる基準で管理されることもあるため、検査値をもとに医師が治療の必要性を判断します。
子宮の形態異常がある場合
子宮中隔など、子宮の形そのものが妊娠の継続に影響していると考えられる場合には、子宮鏡などを用いた手術が検討されることがあります。
ただし、子宮筋腫などを含め、すべての子宮形態異常で手術によって流産率が改善するとは限らないため、形態や大きさ、位置などをみながら治療方針が決められます。
染色体構造異常が見つかった場合
不育症の方では、夫婦のどちらかに均衡型転座などの染色体構造異常が見つかることがあります。
この場合、本人には通常大きな症状がなくても、受精卵の染色体構成によっては流産につながる可能性があります。
染色体異常が確認された場合には、遺伝カウンセリングを受けながら、自然妊娠を継続する方法や、生殖補助医療・着床前遺伝学的検査(PGT-SR)などについて検討されることがあります。
原因が分からない不育症も少なくありません
一方、さまざまな検査を行っても、流産を繰り返す明確な原因が特定できないこともあります。
原因不明の反復・習慣流産に対して、低用量アスピリンやヘパリンなどを一律に使用すれば流産を防げるというわけではなく、原因に応じて治療を選択することが重要です。
海外のガイドラインでも、原因不明の反復流産に対して一律に抗血栓薬を使用することは推奨されていません。
また、反復流産の既往があり、妊娠初期に出血がみられる場合には、プロゲステロン製剤が検討されることがあります。
プロゲステロンは妊娠を維持するために重要な黄体ホルモンで、海外のガイドラインでも、流産歴があり妊娠初期に出血を認める場合には使用を検討することが示されています。
ただし、出血のない原因不明の不育症に対して、すべての方へプロゲステロンを使用する有効性が確立しているわけではありません。
漢方医学では不育症をどのように考える?
漢方医学では、妊娠の成立や維持には、特に「腎(じん)」と「血(けつ)」が深く関係すると考えます。
ここでいう「腎」は、西洋医学でいう腎臓そのものだけを意味するものではなく、成長・発育・生殖など、人が生きていくための基礎的な働きを支えるものとして捉えます。
また「血」は単なる血液だけではなく、全身や子宮などに栄養を届け、身体を養う働きまで含めた概念です。
そのため、漢方では、妊娠を維持する力が不足している状態を「腎虚」、血液や栄養が不足している状態を「血虚」、血液の流れが滞っている状態を「血瘀」などと考え、体質や症状に合わせて漢方薬を選びます。
冷えが強い場合|腎陽虚(じんようきょ)
冷えやすい、手足が冷たい、疲れやすい、腰や下半身がだるいなどの症状がみられる場合、漢方医学では「腎陽虚」と考えることがあります。
「陽」は、身体を温め、活動させるエネルギーのようなものです。
腎陽が不足すると、身体を温める力だけでなく、生殖に関係する機能も低下している状態として捉えます。
このようなタイプでは、身体を温めながら腎の働きを補う漢方薬が検討されます。
- 冷えが強い
- 手足が冷たい
- 疲れやすい
- 腰や下半身がだるい
代表的な処方としては、八味地黄丸(はちみじおうがん)などがあります。
また、より冷えが強く、むくみや尿量低下などを伴う場合には、体質によって牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などが検討されることもあります。
ほてりや寝汗がある場合|腎陰虚(じんいんきょ)
同じ「腎虚」でも、冷えるのではなく、手足がほてる、のぼせやすい、寝汗をかく、口や喉が乾く、舌が赤いといった症状が現れることがあります。
漢方医学では、このような状態を「腎陰虚」といいます。
「陰」は身体を潤し、過剰な熱を抑える働きを持つと考えられています。
加齢や過労、慢性的な体調不良などによってこの働きが不足すると、相対的に熱が強くなり、ほてりや寝汗などが現れます。
- 手足がほてる
- のぼせやすい
- 寝汗をかく
- 口や喉が乾きやすい
代表的な漢方薬としては、六味丸(ろくみがん)などがあります。
血流の滞りがみられる場合|血瘀(けつお)
漢方医学では、血液の流れが滞った状態を「血瘀」といいます。
不育症の方でも、月経痛が強い、月経血に血塊が多い、子宮内膜症がある、子宮筋腫がある、肩こりや頭痛がある、舌に暗赤色や紫色の変化がみられるなどの場合には、血瘀が関係していると考えることがあります。
西洋医学的な「血液が固まりやすい状態」と血瘀は同じ概念ではありませんが、子宮・胎盤周囲を含めた血流という点では、関連づけて考えやすい部分があります。
- 月経痛が強い
- 月経血に血塊が多い
- 子宮内膜症・子宮筋腫がある
- 肩こりや頭痛がある
血瘀に対しては、滞った血の流れを改善する「活血化瘀(かっけつけお)」と呼ばれる治療を行います。
代表的な処方としては、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などがあります。
同じ血瘀でも、疲れやすく、手足の冷えや貧血傾向などを伴う場合には、芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)が検討されることもあります。
芎帰調血飲第一加減は、血を補いながら血や気の巡りを整える処方で、血瘀の中でも比較的体力が低下し、冷えを伴う「虚証・寒証」寄りのタイプに用いられます。
桂枝茯苓丸や芎帰調血飲第一加減など、血の巡りを改善する処方は、妊娠前の体質や症状に応じて検討されることがあります。
一方で、妊娠成立後も同じ処方をそのまま継続できるとは限らないため、妊娠中の使用については医師・薬剤師に確認することが大切です。
血液や栄養が不足している場合|血虚(けっきょ)
月経量が少ない、子宮内膜が薄い、顔色が悪い、疲れやすい、めまいなどがある場合には、漢方医学では「血虚」を考えることがあります。
「血虚」は、身体を養うための血や栄養が不足している状態です。
妊娠の成立や維持には、身体や子宮を十分に養うことが重要と考えられており、漢方医学では「血」を補うことも大切にします。
- 月経量が少ない
- 子宮内膜が薄い
- 疲れやすい
- めまいがある
代表的な処方としては、四物湯(しもつとう)などがあります。
冷えや貧血傾向に加えて、むくみやめまいなどを伴う場合には、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)も代表的な選択肢です。
当帰芍薬散は、比較的体力が低下し、冷えや貧血傾向、月経不順、疲労感、むくみなどを伴う方に用いられる婦人科領域の代表的な漢方薬です。
冷え症や貧血傾向、生理不順などが目立つ場合には、小太郎漢方製薬の一般用医薬品である婦人宝(ふじんほう)も、体質や症状に応じて選択肢となります。
婦人宝は、当帰や阿膠など9種類の生薬を配合し、冷え症、貧血、生理不順、生理痛など女性特有の症状に用いられる漢方薬です。
血の不足だけでなく、疲れやすい、食欲がないなど「気」の不足も目立つ場合には、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などが用いられることもあります。
ストレスの影響が大きい場合|肝鬱気滞(かんうつきたい)
妊活や不妊治療、流産を経験したことによる精神的な負担は非常に大きく、長期間のストレスが続くこともあります。
漢方医学では、ストレスなどによって「気」の巡りが悪くなった状態を「肝鬱気滞(かんうつきたい)」といいます。
イライラしやすい、気分が落ち込みやすい、胸や喉がつかえる、月経前に体調が悪化する、月経周期が乱れるなどがみられることがあります。
- イライラしやすい
- 気分が落ち込みやすい
- 胸や喉のつかえ感がある
- 月経前に体調が悪化しやすい
このような場合には、気の流れを整えることで身体全体の状態を整えていきます。
代表的な処方としては、四逆散(しぎゃくさん)などがあります。
また、肝鬱に加えて、ほてり、頭痛などの熱症状を伴う場合には、加味逍遙散(かみしょうようさん)などが選択されることもあります。
不育症で柴苓湯(さいれいとう)が使用されることもあります
不育症や反復流産の分野で研究されてきた漢方薬の一つが、柴苓湯(さいれいとう)です。
柴苓湯は「小柴胡湯」と「五苓散」を組み合わせた処方で、漢方医学では身体の水分バランスを整えながら、炎症や免疫に関係する状態を調整する目的で使用されます。
不育症では特に、自己免疫異常が関係すると考えられる症例などについて、柴苓湯を使用した国内研究が報告されています。
ただし、現時点では大規模な比較試験によって有効性が確立しているわけではなく、「有効性を示唆する報告がある処方の一つ」という位置づけです。
そのため、漢方薬を使用する場合にも、西洋医学的な原因検索や治療と適切に組み合わせて考えることが大切です。
「流産を繰り返す=次も流産する」とは限りません
不育症という言葉から、「自分は妊娠を維持できない体質なのではないか」と不安になってしまう方も少なくありません。
しかし、流産には胎児側に偶発的に生じる染色体異常など、次の妊娠では繰り返さない原因も多く含まれています。
また、不育症の検査を行っても明確な原因が見つからないケースもあります。
したがって、過去に流産を経験しているからといって、必ず次の妊娠も流産するとは限りません。
大切なのは、必要な検査によって治療可能な原因がないか確認したうえで、その方の年齢、流産歴、体質、基礎疾患などを総合的に考えることです。
漢方薬は「不育症にはこれ一つ」ではなく、体質をみて選びます
不育症に使用される漢方薬には、柴苓湯のほか、腎虚に用いられる八味地黄丸・六味丸、血瘀に用いられる桂枝茯苓丸・芎帰調血飲第一加減、血虚に用いられる四物湯・当帰芍薬散・婦人宝、気血両虚に用いられる十全大補湯、肝鬱気滞に用いられる四逆散・加味逍遙散など、さまざまな処方があります。
同じ「流産を繰り返している」という場合でも、適した漢方薬は体質や症状によって異なります。
冷えが強いのか、ほてりがあるのか、血流の滞りがあるのか、血や栄養が不足しているのか、ストレスの影響が強いのかなどを見ながら、一人ひとりの状態に合わせて考えることが重要です。
不育症の漢方選びはカミツレ薬局へご相談ください
不育症に使用される漢方薬は、妊娠前の体質改善として使われる場合もあれば、不妊治療中や妊娠後の状況を踏まえて慎重に検討される場合もあります。
また、妊娠中には使用に注意が必要な漢方薬もあるため、自己判断ではなく、現在の治療内容や服用中のお薬も含めて確認しながら選ぶことが大切です。
漢方薬の選択でお悩みの場合は、カミツレ薬局へお気軽にご相談ください。
当薬局では、一般用漢方薬の通販にも対応しており、全国へ配送しております。
参考・出典
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「流産・切迫流産」
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン−産科編」
- 厚生労働省「不育症対策に関する検討資料」
- ESHRE Guideline on Recurrent Pregnancy Loss
- 漢方治療指針「女性特有の症状・疾患−不育症」
- 内野直樹.原因不明反復流産患者に対する柴苓湯の有用性の検討.日本東洋医学雑誌.1997.
- 假野隆司ほか.自己免疫異常不育症に対する柴苓湯療法の検討.日本東洋医学雑誌.2008.
※本記事は、不育症および漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としています。
不育症にはさまざまな原因があり、漢方薬のみで対応できるとは限りません。
流産を繰り返している場合には、必要に応じて産婦人科等で検査を受け、医師・薬剤師にご相談ください。



